2018年も総仕上げの時期となりました。こちらをご覧下さっているお一人おひとりにも、この一年、大小さまざまな出来事があったことと思います。

先日、大手自動車メーカーのトップが突然の逮捕、役職を解任されるという驚きのニュースが流れました。各メディアで報酬額の過小記載や私的損失を会社側に付け替えたなどの容疑で逮捕に至ったと報道されておりますが、フランスと日本の行政トップが協議するなど、政治を巻き込んだ大きな問題になってきています。事の真相はこれから明らかにされると思いますが、今回の件を通じて個人的に思うことは、どんなに経営能力を持った人間であっても、自己自身の姿を知ること、正すことは、なかなか難しい面があるのではないかということです。ましてや、その存在自体が大きければ大きいほど、周囲に多大な影響が及ぶ訳で、私たち経営者、トップリーダーにとっては、自己認識の重要性を再認識する出来事ではなかろうかと思います。

私たち自身が、より善く現実を変革していくために、先ず自らを知るためのポイントを考察して参りましょう。

 

相手を通して自分を知る

厳しい経営環境のなか、誰もが精一杯の努力をされていると思います。変革を可能にする主体者は、どこまでも自分自身です。環境ではありません。そして、自己変革は正しい自己認識から始まります。

自分のことは自分が一番よく知っていると、誰もが思っています。しかし、現実には自分自身を知ることは難しい。特に周囲方々の眼に映る自分の姿を知らないことが多いのです。

相手の心のスクリーンには、自分がどう映っているのかを、感じ取る。スタッフ一人ひとりの心のなかにそれぞれの社長が存在します。尊敬する社長、親身に感じる社長、うるさい社長、わかってくれない社長と。それはスタッフによって様々です。これは単に、スタッフから見た社長の長所や短所ということではありません。スタッフ一人ひとりの心に生きる自分自身を知ることです。

つまり、相手のなかにいる自分を知る。自分を知るとは相手を知ることでもあります。相手を知り、自身を省(かえり)みることです。

 

 

誠意を持って一人ひとりと向き合う

では、どうすれば相手を知り、自分を知ることが身につくのか。それは、五感のすべてを相手のために使うことです。先ずはその意識を持つことです。相手がどういう思いでいるのか、悩んでいることはないか、役に立てることはないかと、相手のために五感のすべてを使い相手を凝視する、その訓練をすることです。これは理屈ではありません。現実の経営現場で実際に向き合うことを、何度も何度も繰り返し、体験を通して自身を磨くよりほかありません。

大事なことは、〝声にならない思い〟を感じるまで、誠意を持って一人ひとりと向き合うことです。「今頃はどうしているか、何か悩んでいることはないか」と、会っている時だけでなく、会っていない時にも一人ひとりに思いをめぐらす。

立場が上になるほど、スタッフは本音を言ってはくれません。なんとか勇気を振り絞って言ってくれたとしても、言葉通りの思いではないことが多いものです。「大丈夫です」とは言っても、内面では挫(くじ)ける一歩手前かもしれません。「頑張ります」とは言うものの、頑張りきれない何かがあるかもしれません。

また、誠意を持って向き合う意識がなければ、網膜(もうまく)には映っても相手のことは見えません。たとえ何か気づくことがあったとしても、業務を優先し見過ごしてしまうものです。問題が起こった後になって「確かにあの時の様子が違っていたな」という経験は誰しもあると思います。誠意を持って向き合いつづける。そうすることで、今までとは違ったものが間違いなく見えてきます。些細(ささい)な変化が必ずそこにはあります。そして実は、そこに大事なことが多く隠されているのです。

しかしながら、大事だとは思ってはいても、現実の経営現場に身を置くと忘れてしまうものです。忘れるばかりでなく、やっているつもりになってしまう。だからこそ、意識して相手を凝視し、誠実に向き合うことが大切なのです。

 

相手の姿を通じて自分を知る。それが正しい自己認識につながる。そうして初めて自己変革への具体的前進が可能になります。これが哲学の実践です。

すべての事象は全部つながっています。夫婦問題、親子問題、身近で些細な問題にこそ自己変革の糸口が隠されています。身近な人を借りて、自分自身を正しく知る。勇気を持って、共に自己変革の道を拓(ひら)いていきましょう。

 

参考書籍

アンリミテッド・フィロソフィー

P54 自己認識  P89 裸の王様  P141自覚と錯覚