結果を左右するリーダーの哲学
今日、企業を取り巻く課題は山積しております。採用難、人手不足、円安、物価高騰、コロナ期の反動(借入の返済開始等)・・・。そして多くの経営者が、それらの悩みに対して「方法論」のなかに回答を見いだそうとしています。しかし、その結果として期待した改善効果があがらない場合も少なくありません。
課題に対する解決・改善のポイントは、方法論という手法の問題にあるのではなく、『経営の本質』にこそあるのではと思うケースが少なからず見受けられるからです。
春4月。年度も変わり、新たなスタートのこの時。企業のトップリーダーの「考え方・哲学」の重要性と、その表れでもある「経営理念」について考えていきたいと思います。
経営理念に表れるトップの哲学
では経営の本質とは何か。一言で言えばトップが持つ哲学そのものです。根本です。すなわちトップリーダーの物事に対する捉え方・見方・考え方のことです。その哲学を端的に表しているのが『経営理念』です。一見素晴らしい経営理念であっても、現実の経営内容がそれと程遠いようでは意味がありません。大事なポイントは、利己的な思いから生まれた経営理念なのか、利他的な思いから生まれた経営理念なのかということ。しかしその区別は難しいものです。純金と金メッキの外見が変わらないのに似ています。ですがメッキを施された理念は時間が経過するにしたがって、いずれ剥がれてしまうでしょう。利己的な発想の理念は、いずれ現実の経営の中で、お客様や取引先から見抜かれてしまうのと同じです。
自己自身を見つめるには
トップは常に謙虚な気持ちで自分を見つめ直す必要があります。自分の姿は自分では分からないように、自分ひとりで自らの考え方や判断が正しいのか誤っているのか、利他的なものか利己的なものなのか違いを確認することは難しいものです。そこで大事なのが、どのような相手に自分のことを確認してもらうのかということ。さらに言えば、その相手がどのような考え方の持ち主なのか。
たとえば、相手中心なのか自分中心なのか。いわば善き友や善き師との出会いがなければ自分自身を見つめ直すことも正すことも困難です。出会によって人は変化します。よい出会いがあってこそ、利他的な哲学と理念が重要であることに気づくことができるのです。そして、あるべき経営の本質が利他の考え方だと気がついたなら、次に日常において利他をベースにした言動や振る舞いをしていくことです。その実践によって、あたかも一滴の雫が水面に波紋を起こすように、利他の哲学が会社全体に浸透していくのです。自らを見つめる、その努力こそがトップのあるべき姿であると考えます。
経営理念を浸透させる
「経営理念はあっても、スタッフは全く理解していない」との話をお聞きする機会があります。経営理念とは本来、経営者自身の日々の立ち居振る舞いを通して浸透していくものと私たちは考えています。理念を紙に印刷して壁に貼ったり、声に出して毎日の朝礼や会議のたびに読み上げたとしても、決して社内に浸透してはいきません。確かに「当社の理念はこうである」と打ち出せば言葉としては分かるでしょう。しかし、理念とは紙に書いた言葉ではなく、経営者のなかにある〝思い〟であることを理解していただきたいのです。
言動に表れる経営者の〝思い〟
仮にある企業が「地域振興をはかる!」「社会に貢献する!」という内容の経営理念をうたっているとします。ところが、その経営者やスタッフが周辺地域のイベントや行事に無関心であったり、その際に自社の利益を優先させた行動をしていたとしたらどうでしょうか。掲げてきた理念どおりの経営を行っているのか、誰しも疑問に思うに違いありません。つまり、文字にしたり言葉で発する経営理念は、あくまで理論に過ぎません。その意味で経営理念とは、実体のないものです。それを示すのは経営者の〝言動と振る舞い〟以外にありません。それは朝礼や会議といった場面でも、うかがい知ることができます。たとえば「働く社員のための会社」という理念を掲げていても、経営者が朝礼のたびに数字や目標のことばかり話し、達成が困難なスタッフを責めているようでは、理念はまったく実体を示していないということになります。数値目標の達成ばかりが、そこでの「本音」の理念になってしまっているからです。社員やお客様のためではなく「数字のため、会社のため」の社員になってしまっている。よく言われる定着率・離職率といった数字として結果にも表れるようになります。勿論のこととしてお客様はその雰囲気を敏感に察知します。
本当に「働く社員のための会社」を理念にするならば、朝礼や会議の場面でも目標の確認などだけでなく「皆元気か?」「悩んでいるスタッフはいないか?」と、まずスタッフを思いやる。そこにトップリーダーの思いが表れ、相手に伝わっていくのです。
理念の浸透のためには?
スタッフは経営者の姿や行動を見ています。トップ自らが正しい考え方に基づいた理念を、言動と振る舞いで示すことで、一人ひとりへと理念が広まっていきます。理念が浸透していれば、たとえば、トップがいない会議においても「社長ならどう考えるか」と思い描きながら議論ができる。逆に理念が共有できていない組織ほど、経営者が出席する会議とそうでない会議とで、差が激しい傾向があります。どのような会社であれトップが出席する会議に多少の緊張感があるのは当然ですが、トップの出欠で、参加スタッフの会議に取り組む姿勢が明らかに変わるのは問題です。スタッフがいい意味で「常にトップは横にいる」という意識を保てるような状態を、経営者は常日頃からの言動、振る舞いにより作り上げることが求められるのです。
しかし、そうはいっても見てきた通り経営者は多忙でもあり、人間である以上完ぺきではない場合もあります。それ故に日ごろの教育が重要性を増します。弊社は、本質的な捉え方を養うことを主眼に置いた人材育成研修を提供してきました。スタッフの皆さんが正しい考え方や捉え方が出来るようになることで、結果、理念の浸透も進み活性化へとつながることで成果に結びついていきます。理念がなかなか浸透しない。トップリーダーの考えや社の方針が徹底されないと課題を感じていらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談いただけたらと思います。
最後に、まとめとして弊社創立者があるクライアント様に伝えた言葉をお伝えしたいと思います。
成功への発想の原点(抜粋)
一般的なお客様にとって、表面だけを見ている限りではそれぞれにある数多くの会社は何の変わりもないのかもしれません。でも、時が経てば、同じように見えた会社も、伸びる会社と衰退する会社とに分かれてきます。それはその会社を運営している人々の考え方に従って、会社は伸びもすれば衰退もするからです。そしてその分岐点とは、一つひとつの業務の運営についてどれだけの誠意を込められるのか、そしてそれを突き詰めていく「発想の原点の違い」にこそあるのです。つまり、繁栄と衰退の一切のポイントは、この「目には見えない違い」にこそあるのです。
(書籍「会社を蘇えらせる」より)